伊藤 穰一さん 著の 教養としてのテクノロジー―AI、仮想通貨、ブロックチェーン を読みました。サブタイトルに具体的なテクノロジーが併記されていますが、本書の主題はテクノロジーの解説ではありません。テクノロジーの進化の真っ只中にいる joi さんが、おそらく肌感覚で感じている、このままのテクノロジーと資本主義(=Scale is Everything)だけでは、明るい未来はないのではないか、という危機感について書かれていると思います。

ちょうど時期を同じくして、国谷裕子さんの SDGsを知ろう 、という講演を聞きましたが、ここで伝えられた「このままでは私達の住む地球環境が壊れてしまうという強い危機感」にもタイムリーにつながる内容でした。

本書では、テクノロジーが「経済」「社会」「日本」にどんな変化をもたらしているか、そしてもたらそうとしているか、どんな未来にするべきだろうか、が論じられていますが、特に私の中でも気になったテーマは「経済」と「社会」に関係する、「働く」ことと、その価値に関しての部分でした。

現在、貨幣経済ができ、価値が「お金」に換算され、流通されるようになった。しかもその「お金」同士は為替という仕組みを使って世界中で交換可能になった。一方、「お金」に換算できないものの価値が正しく評価できなくなっている。そんななかでブロックチェーンを初め、暗号通貨、デジタル通貨といった技術が一般的になり、お金とは別の「価値定量化と交換のシステム(Token?)」が発明されようとしていると思います。

コミュニティ(同じ価値観を持つ人が所属する場)の中でしか通用しないかもしれない、でもコミュニティの中で通じる「コミュニティや他者のための活動」をうまく定量化し、さらに大事なのは、それを何らかの形で交換できる仕組み、が重要なインフラになるのではないでしょうか。これはグローバルに1つである必要はなく、分散したコミュニティ/システムの中でそれぞれが価値として残ればよい(デセントライゼーション)のです。

しかし、これは決して新しい概念ではなく、古くからある身近な例でいえば、お手伝いの「肩たたき券」とかも、それでしょうし、Facebookの友達の数や「いいね」の数なんかも近いところかもしれません。SDRs の目標達成のための重要な仕組みである、二酸化炭素排出権の売買/交換、なんかもこれにあたると思います。OSSで公開される「ノウハウ」や「技術」もそうかもしれません。

貨幣の原則はWikipediaによると、「価値尺度、流通手段、価値貯蔵の3機能を持つもの」とあります。いろいろと身近なところで、コミュニティでしか通用しない「貨幣」がある気がします。その貨幣やコミュニティ自体の「信頼」をブロックチェーンなどの技術で担保できると、ローカルな「貨幣」が流通可能になり、面白いことが起こる予感がしました。

最後に、全体から気になったキーワードをメモ。

  • シリコンバレー(と資本主義)のゴールは「Scale is Everything」になってしまっている
  • シンギュラリティ教
  • 働くことがイコールお金ではない、アテンション・エコノミー
  • いまのICOは最終的に損をする被害者がいるような仕組みの上に成り立っている、からダメ
  • ブロックチェーンなど新たなテクノロジーを考える視点において、大事なのは、効率化によるコスト削減ではなく、デセントライゼーションに向かうこと
  • ローカリティに学ぶべきこと、と、ローカルをつなぐ自動運転車というモビリティの関係
  • 自分の人生における「生きがい」を考えることが教育の本質
  • 足るを知る More than enough is, too much
  • ムーブメントには「ハッピー」が必要

さらっと読める本なので、他の人にも読んもらって、それをネタに議論などすると面白いかもしれません。