アフターデジタル2 では前書で示した世界観を「UXインテリジェンス」として再定義し、そのような体験の設計・運用に必要なマインドセット(精神)とケイパビリティに対して整理されていました。その中でも、データとAIを活用した、人とテクノロジーの共創 Ideation by Dataという考え方が示されており、特にその点は共感できました。テクノロジーが発展するなか、人の役割とテクノロジーの役割を常に問いながら、いかに新たな技術を開発したり、取り入れたりしていけるかが今の世の中の醍醐味なのではないかと思います。
特に印象的だったところを、引用交えてメモしてました。
ミッションと提供価値
価値提供の方法が、従来型バリューチェーン、から、バリュージャーニー型へ変化する。すなわち、提供する体験の世界観や、体験への寄り添いが大切になる
企業が提供する体験価値を規定するのが、ミッション。UXはミッションによってユニークになる。例えば、同じデジタル決済アプリでも、アリババは「デジタルによって商取引を円滑にし、中小企業を支援する」のに対して、テンセントは、「すべてをコミュニケーション化する」ための手段。結果として、サービスの有り様は変わり、アリババ(AliPay)では、極力送金と受け取りの手間とコストを排除するが、テンセント(WeChatPay)では受け取るを明示的に行う。お金を送る、という行為をコミュニケーションのきっかけ・手段の一つとしている。
決済プラットフォーマは特にサービサーの特徴がなくなるため特にミッションに規定されたUXが差異化の視点で重要にになるが、これは他のサービスでも同じ。「プラットフォーム」を作るんだ、という言葉ができた時には、特にこのミッションの重要さを再認識すべきと感じました。機能の有無、マルバツで競争すると負けるところも、何のためにやっているのかの軸があることで、逆に機能のバツを他から補完するといった発想が容易になると想像します。
顧客との接点を増やす設計
コアのビジネスの種類によっては、顧客との接点を持つことが難しいケースもある。例えば車の販売。接点を持てる価値をどう提供するかを徹底的に考える。その結果、「モノを売らないメーカー」も出てきた。例えば、自動車メーカーのNIOや、電動バイクメーカーのNIU、若者向け賃貸サービスZiRoom。ただし接点を無闇に増やそうとしても体験価値は提供できない。あくまでコア価値を捉えた、それを拡張するモノである必要がある。
顧客接点の起点が、検索から変わり、コマースは偏在化する
商品販売型から体験提供型になることで、商品の購買はサービスのジャーニーに埋め込まれていくことになる。Instgramからの商品購入導線が人気だったり、また、今後に向けてMetaVerseといった「新体験」が注目されているのもこういう理由でしょう。コマースが偏在化する状態と言える。その時購入の判断基準は体験の世界観、そこで見つかった、ということが重要であり、従来の「検索と比較検討」から変わり、また体験自体もスマホでのインターネットの利用がリアルの生活の中に溶け込むので、リアルとデジタルの垣根のない購買体験になる。
検索に関しては、googleやkakaku.comの危機かもしれません。kakaku.comが次にどんな手を考えているのか気になるところです。また、リアルとデジタルの垣根がなくなり、体験提供者の世界観の中で、商品を選ぶ、となると、これは世界観に誘導されたユーザーの意思が反映されづらい状況になりうる危険性にも感じました。
ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ
どのタッチを使って、カスタマサクセスに導くか。そして学ぶべきは、「接点をつなぐループ」。デジタルとリアルの接点におけるそれぞれの強みと弱みを使って、相互に行き来できるようなUXを作っていくことで、各接点がジャーニーとしてつながっていく
点と点を繋いで、線=ジャーニーにする。Steve Jobsの Connecting The Dots のようですね。
「データは財産」という幻想
データはソリューションにしないとお金にならない、それをどうやって使うか、価値が出せるか、その解釈とセットでないと意味を持たない。
逆の視点でデータ分析技術も同じかもしれません。分析技術だけあっても、データがなければ価値にはなりません。データとセットになって初めて価値になる。もしデータを収集取得するところに課題があるなら、データを集める部分も含めてソリューションにして提供する必要がある。活用できるようなデータを集めたり、整理する部分が課題ならそこもお金になる。
そんな意外とお金にならないデータだが、今ありそうなのは次の3パターンくらい、とあります。
- マーケティング・広告に活用する
- 金融に活用する:いわゆる融資の与信
- インフラに活用する:交通や医療の効率向上
現在、機械学習の発展でクリエイティブ・創作へのデータの活用が注目されていますが、まだまだお金になるパターンにはなっていないようです。データを活用する、活用できる形のソリューションにすることが、今はまだできていない、ということなのでしょう。
個社で持つデータにこそ意味がある
一方、そんな中データの活用方法としてフォーカスすべき方向性についても示唆があります。それは、自社の持つ行動データです。これを
- ユーザーの体験向上
- ビジネスプロセスの効率向上
- 双方を助ける付加価値:新たな体験提供
といったUX活用せよとあります。
つまり、データは、データのまま売れるものではなく、ソリューションに仕立てその価値で売るか、もしくは、自社のサービスの顧客体験価値向上のために使えとのことですね。まさにDXの本質なのではないかと思いました。
UXインテリジェンスとケイパビリティ
ここまでの流れをUXインテリジェンスという言葉をつけてまとめて整理されていました。私も人間中心設計やそこでのデータ活用、定量・定性分析について関心があり、その点でとても腹落ちするものでした。前述のように、提供価値がモノから体験(ジャーニーの中での接点)になる、資産がモノからサービスになる、なかで、UXを作る部分にデータを活用する、投資をするという構造になると言います。「ユーザー中心の資本主義アップデート」と。
(ただ、この図表4−6の、サービスとUXが別のモノ、サービスは有形で、UXは無形、と整理されている部分については、違和感がありました)
その後の整理は、人間中心設計やUX・サービスデザインの考え方そのものです。そこで必要なケイパビリティとして、このように整理されていました。
- ユーザーの置かれた状況を理解する
- ビジネス構築のためのUX企画力
- 企業の系譜と環境の変化
- ペインポイントのゲインポイント化:便利性と意味性を理解した上でのUX設計
- コア体験・高頻度接点・成長シナリオ
- 初回体験にこだわりコア価値を提供することができるか。さらにそのコア体験に隣接した領域で高頻度接点を作ることができるか
- 自動化する体験の設計=ジャーニーボードを回す仕組み
- ここは製品・サービスに成長の仕組みを埋め込むという視点で、例えば、
- パーソナライズされたレコメンド提示
- 顧客の状態やレベルの評価
- アンケートの発信
- が具体的に挙げられていました
- ここは製品・サービスに成長の仕組みを埋め込むという視点で、例えば、
- グロースチーム運用のためのUX企画力
- 人とテクノロジーの共創、Ideation by Data
- 人の役割は、
- ユーザーの状況理解を基に、今までにないモノ(体験)を追加すること
- 一方、テクノロジーの役割は、
- ユーザー行動パターンや状況分類の整理・提案
- 仮説や施策結果のチェック
- ここで注意が必要なのは、データを活用した共感の技術。しっかりとひとが状況を理解した上で、UX施策を打つこと。状況理解なしの自動化された施策は、ただのKPIハックになりかねない、という警告もありました
- 人の役割は、
- 人とテクノロジーの共創、Ideation by Data
上記に加えて、最終章では日本の企業に向けた処方箋的メッセージで締められていました。
前書 アフターデジタルと合わせて、示唆に富むと同時に、データ分析技術をUXデザインに活用するという点で課題感を共感でき、とても良いインプットとなりました。
なお、ちょうど今月、続編が2冊同時に発売されたようです。要チェック。